新年を迎えるとき、家族や親戚が集まってお祝いするのは、日本の伝統的な習慣です。その場で欠かせないのが「お屠蘇」というお酒です。古くからの風習に根ざしたこの飲み物は、単なるお酒ではなく、家族の健康や一年間の平和を願う意味が込められています。本記事では、お屠蘇の歴史や由来、その作り方、さらに飲む際の作法について丁寧に解説します。
お屠蘇の由来と意味
「お屠蘇(おとそ)」という言葉は、「屠」が「悪いものや邪気を排除する」という意味を持ち、「蘇」には「生命を回復する」「魂をよみがえらせる」という意味が込められています。お屠蘇を新年に飲むことには、その年一年を無事に健康に過ごし、家族が繁栄することを願う目的があります。
この風習の起源は、はるか昔の中国・三国時代までさかのぼると言われています。名医・華佗が考案した薬草を使った酒を、魏の君主・曹操に献上したことが、始まりとされています。曹操の健康を祈るために作られたこの酒は、後に「屠蘇」として伝えられ、中国各地で健康祈願の習慣として根付くようになりました。
日本へは平安時代に伝わり、宮中でお正月の儀式として飲まれるようになりました。その後、江戸時代になるとこの風習は一般家庭にも広がり、庶民の間でもお屠蘇が正月の風物詩として親しまれるようになりました。今日では、伝統を重んじる家庭や地域行事で今なお受け継がれています。
お屠蘇に使われる生薬とその効能
お屠蘇は、日本酒とみりんにさまざまな生薬を漬け込むことで作られます。地域や家庭によって配合される生薬は異なりますが、一般的に用いられるものを以下に紹介します。
- 白朮(びゃくじゅつ):利尿作用があり、胃の働きを整えます。
- 山椒(さんしょう):消化を促進し、細菌の繁殖を抑えます。
- 桔梗(ききょう):咳を鎮める効果があり、喉の痛みを和らげます。
- 肉桂(にっけい):体を温め、胃腸の調子を良くします。
- 防風(ぼうふう):熱を下げ、体の炎症を抑える作用があります。
- 陳皮(ちんぴ):吐き気を防止し、胃を整える働きを持ちます。
- 紅花(べにばな):血流を改善し、冷え性の改善に役立ちます。
- 茴香(ういきょう):消化を助け、胃もたれを予防します。
これらの生薬は、組み合わせによってさまざまな効能が期待できます。特に胃腸を整える働きや風邪の初期症状を和らげる効果があるため、正月に飲むことで一年を健やかに過ごすための縁起物として親しまれてきました。
自宅でのお屠蘇の作り方
お屠蘇は、生薬を複数用意するのが一見難しそうに思われるかもしれませんが、実は簡単に作ることができます。市販の「屠蘇散」という薬草パックを利用すれば、手軽に家庭で楽しむことが可能です。
必要な材料
- 屠蘇散(市販のもの)1袋
- 日本酒
- 本みりん
作り方の手順
- 日本酒とみりんを用意し、その中に屠蘇散を入れます。
- 5時間から8時間ほど置いて、生薬の成分を抽出します。
- 時間が経ったら屠蘇散を取り出し、お屠蘇が完成です。
このように、屠蘇散を使うことで自宅でも気軽にお屠蘇を楽しむことができます。お酒の種類や割合はお好みで調整できるため、家庭ごとの味わいを楽しむのも醍醐味です。
飲み方と順番のルール
お屠蘇は、ただ飲むだけでなく、いくつかの作法に従って楽しむのが伝統です。以下はその具体的な手順です。
- 家族全員で東の方向を向き、日の出に敬意を示します。
- 最年少の人が最年長者の前に座り、丁寧に一礼します。
- 最年長者が最年少者にお屠蘇を注ぎます。
- 小盃、中盃、大盃の順に3つの盃で飲み進めます。
- 飲む前に「一人これを飲めば一家無病、一家これを飲めば一里無病」と唱えるのが慣例です。
- 1回目と2回目は口を添えるだけで、3回目に実際に飲むのが作法です。
- その後、最年少者が次に年齢の近い人にお屠蘇を注ぎ、順番に年長者へと進んでいきます。
- 厄年の人がいる場合、その人が最後にお屠蘇を飲むのが通例となっています。
まとめ
お屠蘇を飲む伝統は、時代の流れとともに少しずつ減少しているかもしれませんが、家族や友人とともに新年を迎える際に伝統を再確認する良い機会となります。新年の習慣を通じて、日本の歴史や文化に触れるだけでなく、その由来を次の世代に伝えていくことも大切です。お屠蘇を通じて、家族が一つになり、楽しく新しい一年を迎えることができれば、それこそが真のお祝いになるのではないでしょうか。