2021年の夏、日本で開催された東京オリンピック。前回の1964年以来、57年ぶりとなる待望のオリンピックに多くの人々が期待を寄せました。
しかし、開催時期が真夏の最も暑い季節であることに疑問を感じた方も少なくないでしょう。「なぜ、あえてこの厳しい気候の時期に大会を実施したのか?」という疑問が浮かびます。本記事では、その背景や理由について詳しく解説していきます。
東京オリンピックの日程と延期の経緯
もともと2020年7月24日(金)に開会し、8月9日(日)に閉会する予定だった東京オリンピック。しかし、世界的な新型コロナウイルスの影響により、大会は1年延期されることとなりました。
最終的に、2021年7月23日(金)に開会式が行われ、8月8日(日)に閉会式が実施されました。結果的に、当初の予定と同じ真夏の暑い時期に開催されることになったのです。
東京オリンピックが真夏に開催された理由
ここ数年、日本の夏は猛暑が続いており、毎年のように熱中症への警戒が呼びかけられています。特に2021年のオリンピック開催時期には連日35℃を超える日も多く、「この時期の開催は適切なのか?」という疑問の声が多く上がりました。
実際、1964年の東京オリンピックは10月10日に開会し、比較的過ごしやすい時期に開催されました。しかし、2021年の大会は真夏の開催となったのです。
その背景には、IOC(国際オリンピック委員会)が設定した日程の条件がありました。「2020年は7月15日~8月31日までの間に開催すること」と定められていたのです。これに基づき、東京は「7月24日~8月9日」の開催日程を提案し、開催地に選ばれました。
では、なぜIOCはこの時期にこだわったのでしょうか?
欧米のスポーツイベントとの兼ね合い
オリンピックが真夏に開催される理由の一つとして、欧米のスポーツイベントとの調整が挙げられます。
アメリカやヨーロッパでは、フットボールやサッカーといった人気スポーツが秋から冬にかけて開催されることが多く、オリンピックがそれらと競合しないように配慮されています。
もしオリンピックを秋以降に開催すれば、視聴者の関心が他のスポーツに奪われる可能性があるため、放送局やスポンサーの利益を考慮し、真夏の開催が選ばれたと考えられています。
アメリカの影響力と放映権問題
IOCの最大の収入源は、各国のテレビ局からの放映権料です。その中でも特に影響力を持つのがアメリカです。
アメリカの放送局は、2014年のソチ五輪から2032年の夏季五輪までの10大会分を約120億ドル(約1.8兆円)で放映権を購入しています。この莫大な金額がIOCの財政を支えており、その影響力は絶大です。
実際、2018年の平昌冬季オリンピックでは、アメリカの視聴者に最適な時間に合わせてフィギュアスケートやスノーボードなどの競技が実施されました。日本では午前10時からの開催でしたが、アメリカ東部時間では夜8時のゴールデンタイムにあたっていました。
このように、アメリカのテレビ放映権料がオリンピックのスケジュールに大きく影響を与えているのです。
札幌開催となったマラソン・競歩の理由
2019年10月17日、IOCのバッハ会長は「日本の大会組織委員会と協議の結果、マラソンと競歩の会場を札幌に変更することを決定した」と発表しました。その後、11月1日に正式に札幌での開催が決定しました。
この決定の背景には、2019年の世界陸上(カタール・ドーハ開催)の過酷な気象条件が影響しています。
ドーハでの大会期間中、気温は30℃を超え、湿度は70%以上。こうした環境下で開催された女子マラソンでは、68人中28人が途中棄権。男子50km競歩でも46人中18人がレースを完走できませんでした。
この事態を受け、IOCは東京の夏の暑さを考慮し、選手の安全を確保するためにマラソンと競歩を札幌で開催することを決定したのです。
東京都とIOCの合意点
札幌への変更をめぐり、東京都とIOCの間でさまざまな協議が行われました。最終的にIOCのジョン・コーツ副会長は以下の4つの合意点を発表しました。
- 会場変更の最終決定権はIOCにある
- 札幌移転に伴う追加費用は東京都には負担させない
- すでに東京都が支出したマラソン・競歩関連の費用について、東京都が活用できない分は負担しない
- マラソン・競歩以外の競技は東京都外へ移転しない
東京都の小池知事は当初、マラソンの東京開催を強く主張していましたが、IOCの「会場変更の権限はIOCにある」という立場には対抗できず、最終的には受け入れる形となりました。
まとめ
東京オリンピックが真夏に開催された背景には、IOCの開催条件や欧米のスポーツイベントとの兼ね合い、さらにはアメリカの放映権による影響など、さまざまな要因が絡み合っていました。
また、マラソンと競歩の札幌移転は、選手の安全を考慮した結果であり、過去の国際大会の経験から決定されたものです。
オリンピックは単なるスポーツの祭典ではなく、ビジネスや政治的要因も強く関与していることが、今回の開催時期や会場変更の経緯からも明らかになりました。