深夜の丑三つ時とはどんな時間帯?なぜ「幽霊が出る」といわれるのか、その理由を探る

文化・行事

「草木も眠る丑三つ時(うしみつどき)」というフレーズを耳にしたことはありませんか?

とても夜更けで、人々だけでなく草や木でさえも寝静まるほどの深い闇を指す言葉として昔から親しまれています。

とはいえ、具体的に何時から何時までの時間帯を示しているのか、またどうして怪談話や恐ろしいイメージと結びついているのか、ご存じない方も多いかもしれません。

この記事では、丑三つ時の由来や意味、さらには「丑の刻参り」などの風習について、わかりやすくまとめてご紹介します。

1. 丑三つ時の由来:そもそも何時から何時まで?

まず、「丑三つ時」とは何を意味しているのかを整理しましょう。
結論からいうと、以下の時間帯が「丑三つ時」と呼ばれています。

  • 2時~2時半ごろ

実は「丑三つ時」は、もっとざっくり「深夜1時から3時あたり」と考えている方も多いようです。
しかし、十二支を使った時刻の分類では2時間ごとに区切って「丑の刻」と呼び、その2時間をさらに4つに分割して「ひとつ(初)、ふたつ、みっつ、よっつ」という名称をつけていました。
そのうち「みっつ」にあたる30分間(2時~2時半ごろ)が「丑三つ時」です。
つまり「丑の刻」全体は1時から3時ですが、その中でも特定の30分間を指すのが「丑三つ時」なのです。

2. 江戸時代の時間の測り方「不定時法」と十二支

現代は24時間制が当たり前ですが、江戸時代以前の人々は今のように正確な時計を使っていなかったため、「不定時法(ふていじほう)」という独特の方法で時間を区切っていました。
ここでは、その仕組みを簡単に見ていきましょう。

  1. 不定時法とは?
    • 太陽の動きを基準に「昼」と「夜」をそれぞれ6等分する方式。
    • 夏と冬で昼の長さが変わるため、時刻の長さも季節によって異なっていました。
  2. 十二支と時間の関係
    • 十二支(子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥)を、それぞれ2時間ごとに割り当てていました。
    • 現代の24時間になぞらえると、以下のようになります。
    ・子(ね)の刻:23時~1時  
    ・丑(うし)の刻:1時~3時  
    ・寅(とら)の刻:3時~5時  
    ・卯(う)の刻:5時~7時  
    ・辰(たつ)の刻:7時~9時  
    ・巳(み)の刻:9時~11時  
    ・午(うま)の刻:11時~13時  
    ・未(ひつじ)の刻:13時~15時  
    ・申(さる)の刻:15時~17時  
    ・酉(とり)の刻:17時~19時  
    ・戌(いぬ)の刻:19時~21時  
    ・亥(い)の刻:21時~23時
    
  3. 「四ツ」への細分化
    • 各「刻」自体は2時間ですが、それをさらに4等分して「ひとつ」「ふたつ」「みっつ」「よっつ」で表現。
    • たとえば丑の刻(1時~3時)なら、こんなふうに4つの時間帯に区切っていました。
    1) 丑ひとつ:1時~1時半  
    2) 丑ふたつ:1時半~2時  
    3) 丑みっつ:2時~2時半  
    4) 丑よっつ:2時半~3時
    

つまり、丑みっつ(=丑三つ)は2時から2時半。ここから「丑三つ時」が生まれたわけです。

3. なぜ丑三つ時に幽霊が出る?陰陽五行説と鬼門の関係

「丑三つ時になると幽霊や妖怪が出る」といわれる背景には、東洋の伝統的な思想である**陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)**の考え方が関係しているとされています。
陰陽五行説は、すべての現象を「陰」と「陽」に分け、さらに木・火・土・金・水という5つの要素から万物が成り立つという世界観です。
そこには「鬼門(きもん)」と呼ばれる不吉な方角も含まれており、以下のような理由で丑三つ時が恐れられてきました。

  • 鬼門は「丑」と「寅」の方角の間に位置する
    • 鬼(おに)が出入りする場所とされる北東(丑寅の方角)は特に縁起が悪いと考えられてきた。
    • 時間的に見ると、北東にあたるのがちょうど3時頃の方角・時間帯に重なるとされ、不吉なイメージが強まった。
  • 「陰」が強まる夜の2時~3時あたり
    • 丑の刻(1時~3時)は十二支のなかでも「陰」の力が強い時間帯とされ、闇が深く人々が眠りに落ちる頃合い。
    • これらの条件が重なることで、妖怪や幽霊が活発化すると信じられていた。

こうした陰陽五行説と十二支・方角の組み合わせは、昔の人たちにとって非常に説得力のある考え方でした。
さらに、夜間の暗さや静寂も相まって「丑三つ時=恐ろしい時間」と結びついていったのです。

 

4. 言葉遊びとイメージが重なって広まった恐怖感

江戸時代に入ると、人々は「丑三つ時」を別の字に当てて「丑満つ時」という表現をするようになりました。
これは単なる語呂合わせに過ぎませんが、以下のようなイメージがさらに恐怖感をあおったと考えられています。

  • 「丑満つ時」=「鬼門の力が満ちる時間」
    • 「丑の方角=鬼が出入りする方角」というイメージに「満ちる」という漢字を合わせることで、まるで鬼の力が最高潮に達するかのように感じさせた。
    • こうした言葉遊びが、夜中のイメージを一層不気味に演出した。
  • 夜が深まるほどに訪れる静寂
    • 江戸時代、明かりの少ない夜は人々が早く休むため、本当に物音ひとつしないような静けさに包まれていた。
    • そんな暗闇の中で、かすかな物音や風の音が恐怖心を駆り立てたことも大きかったと言えるでしょう。

5. 丑の刻参りとは?呪いの儀式の背景

「丑三つ時」にまつわる話として、よく引き合いに出されるのが**「丑の刻参り(丑の時参り)」**です。
これは、深夜の丑の刻(1時~3時頃)に人形を使って誰かを呪う儀式で、特に以下のようなやり方が有名です。

  1. 藁人形を用意
    • 呪いたい相手の姿や名前をイメージして藁人形(わらにんぎょう)を作成。
  2. 五寸釘で打ち付ける
    • 指定された神社の神木や御神木に藁人形を打ち付ける。
    • 打ち付ける場所(右手・左手・足・胸など)を呪う相手と結びつけて、「そこに不幸が起こるように」と念じる。
  3. 時間帯が深夜の丑の刻
    • 鬼や悪霊が活発になるとされる丑の刻を狙って行うことで、呪いの効果が高まると信じられた。

貴船神社とのつながり

京都の貴船神社が丑の刻参りと結び付けられて語られることが多いのは、「丑の年、丑の月、丑の日、丑の刻」に貴船明神が降臨したという古い伝承があるためと伝わっています。
最初は心願成就のための秘かな祈願だったものが、いつしか陰陽五行説の鬼門思想などと混ざり合い、「呪い」という暗いイメージを伴う儀式として知られるようになったようです。

6. まとめ:現代と異なる昔の夜の静けさ

現代では24時間営業の店が珍しくなく、夜でも街中が明るい場所が増えています。
当然ながら、深夜1時~3時や2時~2時半でも人々が活動していることは珍しくありません。
しかし、かつての日本では夜の闇は漆黒で、照明といえば行灯(あんどん)や松明(たいまつ)程度。
早くから就寝する習慣だったため、丑三つ時は文字どおり「草木までが眠りについた静寂の時間帯」でした。

  • 闇と静けさがもたらす恐怖
    • 古代や中世には、「夜の闇には人知を超えた存在が潜んでいる」という考え方が当たり前。
    • 動物の遠吠えや風の音など、ちょっとしたことでも霊的な存在を感じさせた。
  • 陰陽五行説と十二支の組み合わせ
    • 宗教観や伝統的思想も手伝って、「丑三つ時は鬼門が開く時間」「幽霊が出る」という噂が広まった。
    • こうした習俗や伝承は、怪談や民話の中に色濃く反映され続けています。

深夜のわずか30分ほどの間に、これほど多くの言い伝えや恐怖心が集約されているのは、昔の生活様式や世界観を反映しているからこそでしょう。
丑三つ時を深く知ることで、当時の人々の暮らしや信仰、夜に対する畏れや意識の高さを感じられるのではないでしょうか。

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