普段、私たちが着るシャツやジャケットには、男性と女性でボタンの掛け合わせが異なるという特徴がありますよね。
では、日本の伝統的な装いである浴衣や着物ではどんなルールがあるのでしょうか。
実は、和服の場合は男女で違いがあるのかないのか、ふと考えると混乱してしまうこともあるかもしれません。
そこで、和服の「前合わせ」の基本や、洋服が男女で左右が変わる由来などを、ポイントを挙げながらわかりやすく紹介します。
1. 「右前」と「左前」はどういう意味?
まず、「右前」や「左前」という言葉が指すのは、「着用している本人から見て、どちらの襟が手前側(下側)になるか」です。たとえば「右前」とは、以下のような状態を指します。
- 右の襟が体に近い位置で下側になる
- 左の襟がその上にかぶさる
反対に、「左前」は上記とは逆で、左の襟が下側、右の襟が上側になるということです。自分が服を着ようとしているとき、「自分に近いほうの襟がどっちに来るか」を確認すれば「右前」か「左前」かを判断しやすいでしょう。
2. 浴衣や着物は男女ともに「右前」
2-1. 和服は男女の区別がない
和装に慣れていない人が最初に戸惑いがちなポイントですが、実は浴衣や着物は、男性も女性も基本的に「右前」で着用します。普段の洋服では男性と女性でボタンの付き方が逆なので、「着物や浴衣も男女で違うのでは?」と思い込みがちですが、和服はすべて同じ合わせ方であるのが特徴です。
2-2. お葬式では「左前」にする特別な意味
ただし、亡くなった方に着せる死装束(しにしょうぞく)だけは、「左前」で着付けを行います。これは「逆さごと」と呼ばれる風習で、生者の日常生活とは正反対のやり方を取り入れることで、この世とあの世を区別するためとされています。そのため、生きている人が「左前」で浴衣や着物を着るのは「縁起が悪い」と言われることが多いのです。
3. 洋服のボタンはなぜ男女で違うの?
次に、私たちが普段着る洋服に目を向けてみましょう。シャツやブラウスを思い浮かべていただくとわかるように、
- 男性用:ボタンが右、ボタンホールが左(→ 右が手前=右前)
- 女性用:ボタンが左、ボタンホールが右(→ 左が手前=左前)
このように洋服は男女で「前合わせ」に違いがあるのが普通です。では、その理由としてはどのような説があるのでしょうか。いくつかの有力な説をご紹介します。
4. よく挙げられる諸説いろいろ
4-1. ヨーロッパの上流階級が始まりという説
- 昔、高価だったボタンは裕福な人々だけが使えた
- 貴族の女性は使用人が着替えを手伝うことが一般的
- 向き合った使用人が留めやすいように、女性服はボタンが左側(左前)になった
これに対して男性は、自分でボタンをかける機会が多いため、右利きでボタンを留めやすい「右前」に落ち着いた、という解釈です。
4-2. 軍服が起源という説
- 男性服のデザインには、軍服の名残が数多くある
- 剣を抜く時に裾が引っかからないよう「右前」にした
- その後、銃を懐に入れるようになっても右手ですぐ取り出せるように、右側が開きやすい「右前」が好都合だった
戦場での一瞬の動作が大きな差を生むため、この仕様が続いたと考えられます。
4-3. 授乳に便利だからという説
- 主に女性は赤ちゃんを抱えながら、右手を自由に使いたい
- 左手で赤ちゃんを抱っこし、右手でボタンを外して授乳する
- そのため、女性の服は「左前」のほうが胸元にアクセスしやすかったという説
4-4. 乗馬スタイルが関係している説
- 女性がスカートをはいたまま横乗り(サイドサドル)をすると、風を右側から受けやすい
- 右にボタンがあると風が入り込みやすいため、左にボタンがあったほうが安心
- こうした乗馬文化から「女性服は左前」というスタイルが定着した可能性
4-5. 異性装禁止令と明確な差別化の説
- 昔の欧州には「異性装禁止令」という制度があり、男性の服装を女性が、あるいは女性の服装を男性が着ることが禁止されていた
- 公共の場で目立つように、わざと男性と逆のボタンの掛け方にした
- 「ボタンの左右で男女を区別している」という名残が現在まで続いている、という見方もある
5. 和服は「右前」としっかり覚えておこう
このように、洋服についてはいろいろな起源や理由が語られていますが、一方の和服はとてもシンプル。男女関係なく「右前」を基本とし、「左前」は亡くなった方に対してのみ行う、ということだけを押さえておけば、浴衣や着物の着付けで迷うことはありません。
普段は洋服の「左右の違い」を意識して暮らしているため、いざ和服を着ようとすると「男性は右、女性は左?」と混乱してしまう人もいるかもしれません。でも、和装の場合はどちらの性別であっても着方は同じなので、難しく考えずに「右前」と覚えておくと安心です。
6. まとめ:和服は前合わせを間違えないように!
- 浴衣や着物は、性別を問わず「右前」
- 「左前」は死装束のため、普段はタブーとされる
- 洋服は男性が「右前」、女性が「左前」が一般的
- ただし、理由は諸説あり定説ははっきりしていない
慣れない和服は、最初は戸惑う部分が多いかもしれませんが、「右前」という一点を覚えておけば、まず大きな間違いは避けられます。着付けをするときは、鏡を見ながら襟の重なり方をチェックし、左右を逆にしないように注意しましょう。洋服との違いを楽しみつつ、日本伝統の装いの魅力を感じてみてくださいね。