端午の節句と聞くと、多くの方は「柏餅(かしわもち)」や「ちまき」を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、どうして5月5日にこうした食べ物をいただくのか、理由までしっかり知っている方は少ないかもしれません。
さらに地域によっては、柏餅やちまき以外の行事食が存在し、昔ながらの風習を今も大切に受け継いでいるところもあります。
そこで本記事では、端午の節句でよく食べられる代表的な食べ物の由来や、全国各地に根づくさまざまな郷土の行事食をご紹介します。
ぜひ読み進めながら、「今年は何を食べようかな」と考えてみてください。
1. 端午の節句とは?
端午の節句(たんごのせっく)は、古くは中国から伝わった行事で、日本では毎年5月5日に男の子の健やかな成長や健康を願う日として定着しました。
現代では、国民の祝日「こどもの日」と重なっていることもあり、「子ども全体を祝う日」として意識する方もいますが、もともとは男児にフォーカスした行事です。
端午の節句とこどもの日の違い
- こどもの日: 1948年に制定された国民の祝日で、子どもたち全員の成長を祝う。
- 端午の節句: 中国由来の伝統的な節句で、男の子の出世や健康を祈願し、鎧兜(よろいかぶと)や鯉のぼりを飾る風習が強く残る。
鯉のぼりや武者人形を飾るほか、菖蒲湯(しょうぶゆ)に入ることでも知られており、邪気を払い厄除け効果を願う風習が現代にも伝わっています。
2. 端午の節句に柏餅とちまきを食べる理由
この時期の代表的な行事食といえば、まずは何と言っても「柏餅」と「ちまき」です。
- 柏餅: 主に関東を中心とした東日本で広く定着
- ちまき: 関西や西日本で比較的メジャー
ただし、最近は地域の境目が曖昧になり、スーパーや和菓子店で全国どこでも両方手に入るようになっています。
それでも「やっぱり柏餅!」「いや、ちまきがなくちゃ!」というように、各地の文化は根強く残っています。
2-1. 柏餅の由来
柏餅は、平たい生地であんこを包み、最後に柏の葉でくるんだ和菓子です。
あんには様々なバリエーションがあり、粒あん・こしあん・味噌あん、さらにはフルーツ入りの変わり種までお店によってバラエティー豊か。
柏餅が縁起物とされる理由
- 柏の木は神聖視されてきた
昔から柏は“神が宿る木”と考えられ、神事や祭礼に深く関わってきました。 - 古い葉が新芽が出るまで落ちない性質
家系が絶えないことを象徴する縁起物として、子孫繁栄を祈る食べ物になったといわれます。
そもそも端午の節句は中国伝来の行事ですが、柏の葉で餅を包む習慣は日本独自のもの。
こうした点にも、日本の季節感や風土を生かした行事の受容・変化が感じられます。
2-2. ちまきの由来
一方のちまき(粽)は、中国からそのまま伝わった背景があるとされています。
笹の葉や竹の皮でくるんだ細長い形は、地域によって材料や中身が違いますが、大きく分けて下記の2パターンがあります。
- 団子タイプのちまき
- 米粉や葛粉などをこねて作る
- 甘みのある団子状の生地を笹の葉などで包む
- おこわタイプのちまき
- もち米を蒸してから味付けする
- 竹の皮などに巻いて紐でしっかり結ぶ
中国の故事「屈原」とちまき
ちまきが5月5日に食べられるようになった由来として有名なのが、屈原(くつげん)という政治家・詩人の伝説です。
屈原が川に身を投じた日が5月5日とされ、彼を弔う人々が米を包んで川に流したことから「ちまき」が行事食として定着しました。
また、もともとは五色の糸で巻いて龍除けを意識していた風習が、日本では鯉のぼりの吹き流しなどで色彩を反映しているとも言われています。
3. 地域別:端午の節句に食べられるいろいろな行事食
「端午の節句=柏餅とちまき」と思いがちですが、日本全国を見渡すと、そのほかにもユニークな行事食がたくさん存在します。
昔ながらの風習を色濃く残す地域もあれば、時代の変化に合わせて進化しているご当地グルメもあります。
ここでは、有名な郷土菓子を中心にまとめてご紹介しましょう。
3-1. 全国的によく見られるもの
草餅(くさもち)
- 特徴
- ヨモギが練り込まれた鮮やかな緑色の餅
- 香りや味に野趣あふれる爽やかさがある
- 由来
- ヨモギは古くから薬草として用いられ、厄除けの力があるとされる
- 子どもの厄災を払い、健康を願う意味で端午の節句に食べる風習が定着
草餅自体は春先によく登場しますが、端午の節句シーズンになるとより意識して食べる家庭も増えるようです。
3-2. 北海道や東北地方の一部
べこ餅(べこもち)
- 作り方と特徴
- 上新粉や白玉粉、砂糖、塩などに熱湯を加えてこね、形を整えてから蒸す
- 白と黒、あるいは赤や緑など何色かを組み合わせ、木の葉や花の模様を形どる
- 食される機会
- 端午の節句によく登場する一方で、お正月やお彼岸といった「ハレの日」にも用いられる
- 最近では一年を通じてスーパーやコンビニでも手に入り、手軽なおやつとして楽しまれている
“べこ”とは牛のことで、模様や形が牛に似ているものもあれば、単に白黒のコントラストを「牛柄」に見立てている場合もあるようです。
3-3. 新潟県の一部地域
笹団子(ささだんご)
- 特徴
- もち粉と上新粉、よもぎの入った生地であんこを包む
- 新鮮な笹の葉で巻いて蒸すため、笹の香りがほんのり移ってさわやか
- 由来や意味
- 笹には抗菌作用があることから、保存食としても便利
- 無病息災を願い、端午の節句に限らず広く親しまれている
新潟の代表的お土産としても有名です。地元では家庭で手作りすることが多く、作りたてならではの香りと食感が味わえます。
3-4. 徳島県脇町
麦団子(むぎだんご)
- ポイント
- ちょうど端午の節句頃に麦の収穫が重なる
- その新麦を粉にして作る団子を山帰来(さんきらい)の葉で包む
- あんこ入りのバージョンも
- 甘いあんを包んで食べるタイプもある
- 地域の茶菓子やお祝いごとに欠かせない一品
小麦の収穫期ならではの風習で、農作物の恵みに感謝する意味が込められています。
3-5. 長野県や岐阜県
朴葉巻き(ほうばまき)
- 作り方
- 朴の木の大きな葉を使い、生地を包んで蒸す
- あんこを包む場合と、白い生地だけの場合がある
- 由来
- 山間部では柏の木が手に入りにくかったため、朴の葉を代用
- 殺菌効果のある葉で包むことで日持ちし、独特の香りも楽しめる
標高の高い地域ならではの工夫が感じられ、男の子の成長を願う大切な行事食として根付いています。
3-6. 長崎県
鯉菓子(こいがし)
- 特徴
- 鯉をかたどった可愛らしい和菓子
- 外側は求肥(ぎゅうひ)や餅粉で作られ、中にはあんこが詰められることが多い
- 由来や風習
- 「鯉が滝を登ると龍になる」という中国の伝説から、立身出世の象徴として鯉は好まれる
- 長崎では初節句の内祝い(お祝いのお返し)として贈る習慣もある
鯉のぼりのモチーフをそのままお菓子にしたような見た目で、贈答品としても人気が高い一品です。
4. 食べ物から見る端午の節句の楽しみ方
端午の節句にあわせて紹介してきた行事食には、それぞれに意味や願いが込められています。
子どもの健やかな成長を願う気持ちは全国共通ですが、下記のような楽しみ方をしてみると、より深く伝統行事を味わえます。
- ご当地の素材を使った食べ物を取り寄せる
- 普段は味わえない地域の味や形を取り入れて、行事を盛り上げる
- 由来や歴史を子どもに話す
- ただ食べるだけでなく、「どうして柏の葉なの?」「ちまきはなんで笹の葉?」などと、豆知識を伝える機会に
- 手作りに挑戦してみる
- 近年はレシピサイトや動画で作り方が手軽に学べる
- 親子で楽しみながら作ると、伝統行事への理解も深まる
ほかにも、地域によっては子ども神輿や伝統芸能が行われる行事もあるので、その土地独自の文化もぜひ調べてみてください。
5. まとめ
端午の節句は中国から伝わった行事ではありますが、日本各地で独自に発展し、食文化にもその足跡が色濃く残っています。
柏餅やちまきだけでなく、べこ餅や笹団子、朴葉巻きや鯉菓子など、地域ごとに多彩な行事食が存在するのは、先人たちが大切に守り続けてきた風習の表れです。
もし家族に小さなお子さんがいる場合は、「これがどうして端午の節句に食べられているのか」という由来を、ぜひ一緒に話してみましょう。
地域の食文化を知り、由来を学びながら味わうと、ひとつひとつの行事食がいっそう尊く感じられます。
日本の四季や歴史と深く結びついた行事を通じて、子どもにも伝統文化への興味を高めてもらえるきっかけになれば幸いです。